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2012年01月05日

小詩集 新しい人生

小詩集 新しい人生
福間健二             




秋をたのしむ



お金持ってないの?
ヨーロッパのはずれの野原で会った
ろばに乗るロマの少年。
その美しい目を落胆させて
暗い東京に戻った。
三月、カメラのとらえた東北の少年も
おなじ目をして
見抜いている。もっと
怖いことになるかもしれないものを
そのままにして平気なはずはないけど
怖くないと言う。ひとつの声で
いろんな物語の主人公になる
エミネムのまねして、この年の
線路。計算まちがいが連続して
連結がうまく行かないだけじゃない。
彼と彼。祈る者と祈らない者。
あれからどうしてるだろう。
Aと向きあう。Bと向きあう。
その大切さもこの大切さも
わかって、わかって、わかりすぎて
死者を思い出す夏がきて
大型台風がきて
さらに特別な濃さとなるこの年の
灰色。出会う主人公を見失って
空の青も稲の穂の金色も大苦戦だが
ぼくは秋をたのしむ。
晴れて
天と地がはっきりと見える朝
つめたい空気を全身で感じながら
太極拳をする。
包まれる。向きあわなくてもいい。



新しい人生


それ自体の光で輝くものを嫉妬しない。
どんなさみしい通りでも
小さな青い影をかくしているつもりで歩く。
どうしようもなくいやなやつ
彼が屑だとはっきりとわかるように
その「正義」をばらばらにして
多摩川の、向こう側の
茂みに打ち上げたりしないのである。
神奈川県。
彼に権力なんかなく
「ふとったオカマ」の思い出を残しているだけだ。
ほんのすこし豪傑になって
前の夜に散財をして暗い気持ちになっているような弟たちの
肩をぽんと叩いて、笑ってやる
そんな朝から一日をはじめたかったのだろう。
彼の話だ。自転車に乗っていたころの
川崎。ヤキトリ屋がたくさんあるね。
ほんとうに鳥の、ヤキトリだ。
台風がくる。
メアリーという名前だって。
ぼくはどうしたらいいのか。
メアリーの目のなかに入って人間を洗濯する。
事件の青い影を追うのは終わりだ。
メアリーの親戚にはどなられるだろうけど。



落ち着かない気持ち


帰らない人を思いながら
きれいな場所をつくる。
掃除とだれかの言葉の引用。三月からの
落ち着かない気持ちを座らせるために。

まだ失われてないもの。たとえば
爪、明るい娘たちの。釘、歌う息子たちの。
納得できない線を、引っかいてつくるキズで
消そうとする。痛い。消えない。

きのうも揺れた。ミスの多い労働、
言い合い、それから深酒。
いちばんだめなぼくからも
逃げ出せない虫たちを踏む靴、履きふるした古靴だ。

暗がりのなかで、いつまでも枯れない花。
その香りに近づくのをためらう者の
小さな声を聴く。
意味はわからなくても、リズムをもらった!

見えない文字をもう追わない。
十一月、いないのはぼくだ。
ぼくから逃げ出した虫たちが集会を開き、
風が吹いている。このつめたさだけがきょうの武器。

試練、不満、つじつまのあいすぎる物語の夜を放りだして
じっとしていられないのは
気持ちの針だけではない。
月をながめながら、急ぎ足で冬に入る。



二度寝しないために


午前四時。目がさめて、二度寝は
よくないと意志をつよくして
全身でいくつか文字を
殴り書きするように動き
三階の部屋から
外の暗い道に出た。
だれにも見られていない。
なにか底におりたという気がした。
弱い風が吹いている。
遠くで、なにか割れたような音。
人の声も。
二十年以上住んでいる町が
いままで見せなかった表情で
なにか指示している。
あかるくなるまでに
何をすればいい?
だれの意志でもなく
構造で決まってしまったものの
どこをどうすればいい?
よくわからないけれど
もっと下に行けたらいいと思った。



(ノート)
『青い家』以後、2011年のあいだに活字媒体に発表した作品のうち、長めの「トモハル」(現代詩手帖2011年8月号)、「彼女のストライキ」(同11月号)、「ご飯はできていない」(同2012年1月号)以外のすべて。
初出は次のとおり。

 二度寝しないために/新しい人生 「アンソロジー2011」2011年7月31日
 秋をたのしむ          読売新聞夕刊 2011年10月15日
 落ち着かない気持ち       東京新聞夕刊 2011年11月26日

「二度寝しないために」は、四月、住んでいる国立市の市長選の直後に書いた。
「落ち着かない気持ち」の4連目の1行目、初出のときの〈つじつまのあう物語〉を〈つじつまのあいすぎる物語〉と直した。
posted by tough mama at 14:32| Comment(0) | 福間健二の作品・エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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